父・宮脇俊三が愛したレールの響きを追って
……小海線の車窓を眺めながら「元気甲斐」を味わうという目的は達成された。だが、期待したほど楽しくはない。むしろ、物悲しい。天気のせいだけではない。これを食べていたときはいつも家族と一緒だったのに、今回は一人だからかもしれない。
鉄道紀行作家・故宮脇俊三氏の長女、灯子氏の初の鉄道紀行集。父を題材とした著作の2作目にあたる。前作は「親の七光り」という有体な批判もあったけれど、彼女だからこそ描ける宮脇家の姿はリアリティがあった。私をはじめとして多くの宮脇ファンは俊三氏の人柄を知り、尊敬を深めた。
さて今回は鉄道紀行を出された。これは「親の七光り」×「2匹目のドジョウ」であって、宮脇俊三ファンの一部からはさらに強い批判もあった。実は私も「これはあざといなぁ」と思った。世田谷文学館で開催された宮脇俊三展を見たときも、売店に並んでいたけれど通り過ぎた。俊三の娘は俊三にあらず、と思ったからだ。
しかし、その帰り道に気が変わった。