汽車旅のしおり

全線乗り潰し系紀行家のブックマーク集。

水戸岡鋭治語録 - 2011年10月19日 六本木AXIS

東京・六本木で開催された「水戸岡鋭治の大鉄道時代展 鉄道をデザインする」に行って来ました。

展示物の殆どに既視感があったので、トークショーのある19日に行ったんですよ。それで正解でした。面白かった。最後はじゃんけん大会でプレゼント付き。そして、閉場まで残ったグッズ購入者全員にサイン会というサービスたっぷりなイベントでした。

クルーズトレイン展示関連は日記に書きました。
FaceBookにもちょっと書いてます

ここではトークショーから、印象に残った言葉を書きだしておきます。

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JR九州の社長は僕よりもっと面白い人。過激な人。すぐに採算を考えないで、まずはプレゼントしようと考えている。楽しいこと。美しいこと。心地がいいこと。その結果お客さんがファンになり、サポーターになり、何回も使ってくれる顧客になる。そうするとすこしずつお金が入ってきて、それが経営の元になる。利益よりまずファン作りをする。ファン作りが一番大事。25年間ずっとそうやってきた。これからもそれが大事。

子供たちが楽しかった思い出を、あるとき思い出してくれて「俺達も子どもたちと旅をしよう」と、そういう列車を作りたい。

いまこんな時代にクルーズトレイン、豪華列車の旅なんて作ってどうするのか。ビジネスになるのか。社内でも反対意見はある。だけど社長がやりたい、僕もやりたい、社内でもやりたい、いろんなお客様や外部の人に取材すると、みなさん「寝台列車がほしい」。効率が悪いと寝台車が廃止されていくなかで、いまそれをつくろうとしています。ここにある5つのブースはそのプレゼンテーションです。車両を走らせるのではなくて「家、ホテル、サロン、カフェ、バー、飲食店、そういう街並みを機関車で引っ張っていこう」というテーマです。自然の素材、木とか、漆喰、金箔、竹を使って、子供たちのための小さい映画館、茶室……世界ではどこもできなかった列車を作って、九州で走らせる。それを社長が決めてくれた。
デザイナーがすごいんじゃない。私みたいなことを考えるデザイナーはいっぱいいる。そのアイデアをを受け入れて決断できるリーダーは少ない。JR九州の唐池恒二氏は私より5つも若いのに、見事に決めてくれてます。いい殿様に会いたいなあと思って旅をしてきたら、ここで出会えた。この人ならいい家臣になれる。外様だけど。だから全力を尽くす。

博多駅の屋上に鉄道神社を作って、鎮守の森を作って、仲見世を作って、ミニトレインが走ってる。私が子供の時、こんなのあったらいいなというものを提案したら、どこも大反対だった。なぜなら、屋上って1年間のうち、1/3の時期しかコンディション(気候)が良くない。それで採算がとれるか。公共の場所に宗教を持ち込むなんて許されることではない……。でもJR九州は、それ面白いね。ってOKしてくれた。オープンしたら大人気。駅ビルに来るお客さんの1/10が屋上に上がってくれる。ミニトレインは90mを2周するんだけど、半年間で10万人乗りました。しかもお金とるんです(会場笑)。ひとり200円。子どもも大人も。2000万円稼いだ。1年で4000万になるかな。誰もそんなの想像してなかった。神社にはお賽銭箱があって、ここに毎月**万円入ってくる。箱をおいただけですからね。勝手に箱をおいて、勝手に拝んでもらって(会場笑)。そのお金で屋上の緑化とか、いつもきれいな屋上ができています。

既成概念を崩す。楽しさ、面白さ、新商品を考える。そのためには今までと違って手間ヒマをかける。緑をちゃんとする、居心地の良い椅子やベンチ、空間を作って物語がないとダメです。JR九州だけではなくて、いままでの既成概念を崩してなにか面白い事をやりたい、という会社や人が来ればお手伝いをして、お金儲けしたいという人が来るとお断りして、これが僕のスタイルです。お金儲けに興味はない。お金はなくちゃ困るけど、活きるためのお金があればいいので、できるだけ楽しいことをしていきたい。経済と文化なら、どちらかと言うと文化を大事にして、経済はそのサポート役。JR九州はそれを許してくれる珍しい会社です。

決断は家に持ち帰らない。50年間生きてきた男が、家に帰って勉強して点数が上がるわけがない。50年、20年、15年……いろいろやってきた中で、答えはもう決まってる。それ以上、それ以下はない。その場で決めなくちゃいけない。それがプロの仕事。その積み重ねで、速くて安くて旨いものができて、豊かな環境が作れて、子供たちにいいものを提供できる。

私達の仕事は、次の世代の子供達にどれだけいいものを残せるか。私たちは何かを決めるときに、「次の世代の子供の為に」と考えれば答えを間違わない。会社のために、国のためにとなると間違える。日本は豊かな時代となって、その一方で心を失うようなことが起きている。だからもう一回みんなで「次の世代の子供達のために、いかにいい環境を残すか」やらなくちゃいけない。僕らとJR九州はキッズデザインプロジェクトといって、6歳以下の子供に向けた取り組みをしています。

公共デザインの大事なところは、どんな経済状況の人でも等しく使えるところ。子供だって、豊かな家、貧しい家、親に教養があったりなかったり、いろいろです。それでも、公共空間が凄ければ、みんながだれでも体験できる。子供は環境で育つ。いい大人が居る。いい町がある。良い風景がある。人と物の質が良ければ子供はちゃんと成長する。

質のよい街は観光ができる。スイスは1000人の街でも綺麗です。なぜか。次の世代のために街づくりをしているからで、その基本は、自分が食べる仕事をやって、みんなのための仕事をしてきたから。日本も昔はそうだった。僕の田舎もそうで、午前中は農作業をする。自分ちの畑で。お昼を食べたらみんなで家を立てたり、用水を掃除したり、山を整備したり、みんなでやってた。それがいつの間にか全部自分のためになって、会社のためになって、家族を壊し、環境を壊した。お金は増えたけど心は寂しくなった。それを取り返さなくちゃいけない。

たかが電車、たかがホーム。だけどそこから良くしていく。素晴らしい電車を作れば人が変わる。マナーが変わる。対話が生まれる。理解し合える。豊かなコミュニケーションがあって良い社会ができる。公共デザインはそのためにある。私たち大人は最高の環境をつくる義務があるし、子供たちは最高の環境を受け取る権利がある。それを忘れちゃいけない。

JR九州の電車は木を使う。ほかのJRはプラスチック。プラスチックはいいことづくめです。軽いし、加工しやすいし、安いし、均質で。木はその逆で、重いし、加工しにくいし、高いし、欠点だらけ。でも最後、環境にどうかと考えたらすべてひっくり返る。次の世代のために考えたら逆転する。心と体に心地いいデザインを考えた時、身体にここちいいものは簡単です。でも心に気持ちいいものを考えると、プラステックではないでしょう。次の世代のために素材を決めれば間違いがない。自分たち大人たちが豊かになるためにと考えると間違える可能性が高い。

デザインに境界はない。歴史を振り返ると、デザイナーは何でもやった。ダリにしてもディズニーにしても。公共デザインとかグラフィックデザインとか建築デザインとか、それらはデザインというくくりで全部やるのがデサイナーの仕事だった。でも日本は効率を求めて分業にしちゃった。その結果、総合点の低いデザインになってしまった。私は総合力の高いデザイナーになるために、素人だけど鉄道のデザインをやらせていただいた。建築もやらせていただいた。建築って、僕は一級建築士の資格がないんです。だけど駅もデザインする。一級建築士の資格のない私に発注するJR九州もおかしいんだけど(会場笑)。私も引き受けちゃったのはおかしいんです(会場笑)。だけど、その「おかしさ」に通じるものがあった。

私は実家の家具屋を継ぐために岡山県立工業高校のデザイン科に入りました。かとう先生は変わった人で、授業では「デザインとはなんぞや」しか言わない。試験も「デザインとはなんぞや」ってわら半紙で。それにいろいろ書いて提出すると、60点とか30点とかついてる。毎回そうなの。デザインは哲学であり情緒である、みたいなね。当時のデザインは、いかに合理的で量産してという時代で、クルマの色は無地がいいなんて風潮だけど、その先生は、黒い車に金の唐草模様なんてかっこいいよね、とか言うんです。僕ら困った。でも、いま思うと、その先生のお陰で、僕は少し外れたデザイナーになれた。

今年3月に引退するつもりでした。博多駅ができて、(九州)新幹線が走って終わり。そのつもりで事務所のスタッフにも、来年事務所をたたむよと言ってた。ところがJR九州の唐池恒二って人が社長になって「もうちょっと付き合え」って(会場笑)。次のクルーズトレインまでやろうよって。あと3年ですね。僕はもう歳ですから、3年後は67歳なんです。もう遊ぶ時間がない(会場笑)。さんざん仕事をしてきて、まだ仕事をするのか。女房も「そろそろやめて遊びませんか」と。でも素晴らしい殿様に、まだやれと言ってもらえたら、まあ自分のことはいいかと。事務所のみんなも、あと3年延びて、自立が遅れて、いま不安に駆られているんじゃないかな(会場笑)。

自分が引退したあと? 知りません(会場笑)。僕が急に事故で死んだあとをどうするっていうのと一緒でね。僕が考える必要はない。そこはちゃんと、私の弟子かどうかはともかく、世間で私の思いを受け取った人がどこかで継いでくれる。いまできることをしっかりやることが大事で、先を考えすぎると間違う可能性がある。今日は3歳とか5歳のお子さんが来てくれて、将来はデザインをやりたいって。怖いね。追い越されちゃうね(笑)。

好きな場所……一番何とかってのは苦手で。心のなかではいつも変わる。同じ所でも嫌いになったり好きになったりする。変わらないところは、自分が手がけた列車や場所で、お客さんの笑顔を見ると、ああ人吉って好きかなって思う。次にどこかへ行くと、そこも好きだなって思う。デザインはその地域を好きにならないとできない。その場所をつまらないと思ったら、つまらない仕事しかできない。美しい街だからすごい人がいるに違いない。おいしい水があるんだからすごい料理人かいるに決まってる。そう思って行くんです。だから、どこへ行っても、ああ最高って思う。

美しくないところは美しくないって言います。○○は汚いね(会場笑)。世界遺産だってなにを言ってるんだと。こんなに美しい自然があって、その足元をこんなに汚してしまって……怒りました。そういうことはちゃんと言います。それから○○市。いまは少し意識が変わって良くなってきたけど、あんなにお金持ちなのに、街を作る力がなかった。今日はトヨタの人もきてるんだけど(会場笑)。トヨタは城下町を作れなかった。信長にしても秀吉にしても、きれいな城下町を作って国民を豊かにした。それが企業ですから。最高の企業がある街は美しいんですよ本来は……すみませんトヨタの人(会場笑)。

私はいつも、最高のデザイナーはお母さんだと思っています。こどもを、ゼロから始めて、計画的に将来を見据えて、どういう大人に、どういう人間にするかをデザインてしていく。お母さんにまさるデザイナーはいない。

子供たちがデザインを意識したときに、あの時に乗った電車や駅みたいなデザインを作ってみたい、と思ってくれるようにデザインしています。

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参考:唐池恒二氏プロフィール

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